カイム塗料の歴史

20世紀:モダニズム建築とともに

140余年もの歴史を誇る独Keimfarben社(カイム社)のシリケート塗料。その歩みには多くの人々が関わっており、中には歴史上よく知られた人物や、近代建築の巨匠なども登場します。国や時代を超えて彼らに共通していたもの、それはより良いものを作らんとする情熱でした。ここでは20世紀、モダニズム建築と共に発展したカイム塗料の軌跡をご紹介します。

バウハウスの巨匠が愛した塗料

ドイツ南部・バイエルンにて設立されたKeimfarben社(以下、カイム社)の塗料は、ノイシュヴァンシュタイン城を筆頭に、バイエルンのあらゆる城砦宮殿やランドマーク的建造物に使用されました。そして20世紀に入り、モダニズム建築の潮流に乗って次々に新しい建築が生まれる中、カイムのシリケート塗料も新たな飛躍を遂げます。

モダニズム建築とは、産業革命以降の工業化社会を背景に生まれた、鉄やガラス、コンクリートなどを使用した機能性と合理性を重視した建築です。石やレンガの建物から、鉄筋コンクリートの、いわゆる現代的な「ビル」が建てられるようになったのがこの時代です。その立役者となったのが、1919年に設立したドイツの芸術学校・バウハウスでした。1920年以降、グロピウスやミース=ファン=デル=ローエといったバウハウスの巨匠たちは、カイムのシリケート塗料をこぞって採用しました。戦争で焼失し、近年再建されたデッサウのマイスターハウスは、これに倣ってカイム・コンクレタールが使用されています。

タウトの絶賛した色彩

「色彩の建築家」と呼ばれたブルーノ=タウトはカイム社に宛てて、「シリケート塗料は発色も素晴らしく、キズや退色にも強い。私にとって最高の塗料だ」と絶賛した書簡を残しています。

当時、タウトは第一次大戦後の不況にあえぐドイツで、住宅供給公社ゲハークの主任建築家として、1万2千戸もの集合住宅を設計しました。労働者が衛生的に暮らせる住宅を目指していたタウトの理念と、経済的で安全性の高いカイム塗料の親和性は高かったと言えます。これらの住宅は、ベルリンのモダニズム集合住宅群の1部として2008年に世界遺産に登録されました(参考:独カイム社の事例ページ)。日本の公団住宅のモデルにもなったことでも知られています。

コルビュジェの色彩を再現

タウトと同じく建築における色彩を重視し、近代建築の三大巨匠の一人と言われるフランスのル=コルビュジェも、後に世界遺産となったものも含め、その作品の多くにカイムのシリケート塗料を使用しています。「建築における色彩は、平面図や断面図と同じくらい、もしくはそれ以上の重要な構成要素である」との言葉が伝わるコルビュジェが開発したカラーパレット全63色は、天然顔料をベースにしており、カイム社はコルビジュエ財団の認定を受け、その色を忠実に再現した「poLyChro®」シリーズを上梓しています。

時代と共に進化する塗料

近代建築の歩みと共に、建築用塗料としての地位を不動のものにしたカイムのシリケート塗料。

しかし時代が進み、開封してすぐ使用できる一液性の合成樹脂塗料が主流になると、液体状態での保存が効かない二液性の塗料は苦境に立たされます。

当時のヨーロッパは、第二次世界大戦後の住宅復興に伴って、建築用塗料の需要も飛躍的に伸びていました。カイム社もその機を逃すまいと、1962年、一液性のシリケート塗料「カイム・グラニタル」を開発。化学反応によって素地に含浸するメカニズムはそのままに、樹脂塗料より耐候性も高く発色も美しい第二世代のカイム塗料は、欧州を越えて世界的に使われていきました。

カイム・ロイヤランはこのグラニタルの耐候性を更に向上させた、亜熱帯・熱帯気候向けの製品です。

2002年には、コロイダルシリカを混合し、含浸しない非鉱物性の表面への定着力を強化した「カイム・ソルダリット」が開発され、カイム塗料の用途は更に広がりました。従来の塗料が一部残った面の再塗装にも適しているこの塗料は、ホワイトハウスクレムリンの壁など、歴史的建造物の補修にも用いられています。

建築の歴史と共に絶えず進化してきたカイムのシリケート塗料は、21世紀以降もザハ=ハディドMVRDVなどの現代建築家に愛用され、幅広い実績を残していくことになります。

創始者カイム氏のメッセージ

創始者カイム氏は、その言葉が提起されるはるか以前から、「持続可能性」について技術者が果たす社会的責任を重く受け止めていました。工業化が推奨され、物を次々に作って売ることが最も称賛された時代に、製品が地球環境や人々に与える影響について目を向けていたことは、驚くべき先見の明だったと言えます。

その意志は、現在に至るまでカイム社の根幹に受け継がれており、単に革新的な製品を生み出すだけでなく、常に地球環境と人々の生活に最適なソリューションをもたらす技術開発を志しています。140余年の歴史の中で培った知見と技術力を携えて、カイムの塗料はこれからも進化し続けていきます。

「私たちは仲間であるすべての人々、そして次世代のために生き、働き、あがき、戦い、そして世界をより良いものにしたい」

―A.W.カイム