シドニー オペラハウス
オーストラリアのランドマークの悩みは、沿岸の過酷な潮風による塩害
バイエルン州ディードルフ、ドイツ
2015年
その学校は、ドイツ南部の都市アウグスブルクから9kmほど離れた郊外の、田園風景に溶け込むように建っている。一見すると納屋のように素朴な見た目からは想像ができないが、この建物は「サステナビリティ」というコンセプトのもと、デザイン、設計、構造のすべてが計算し尽くされた最先端のエコ建築として、隔年でドイツ建築家協会が候補を選定し建築省が1件だけ授与するという、ドイツで最も権威あるドイツ建築賞をはじめ、木造建築や持続可能性に関する様々な賞を受賞している。
その最大の特長は、構造材を含むメイン建材として木を使用していることだ。木材はリサイクル性が高く環境負荷も低いエコ建材として、近年ヨーロッパで再注目されているが、この規模の公共建築でメイン建材としての採用はまだ珍しい。
グンター・マンハルト校長は、「この学校の建設に使用された木材の全量は、ドイツ国内の森林総面積にわずか55分で再生します」と語るが、これは建築過程でほとんど資源を消費していないことを意味している。建物全体のエネルギー効率は極めて高く、徹底した断熱構造や太陽光発電システムによって、学校全体はゼロエネルギーどころかプラスエネルギーハウスになっている。これはドイツ国内の学校としては初めての事例だ。
この学校を彩る塗料として、長寿命でメンテナンスコストの低いカイムのシリケート塗料は、まさにうってつけだった。プロジェクトとほぼ時を同じくして、長年の研究の末に木部用のシリケート塗料「リグノシル」が誕生していたことは、非常に幸運だったと言えよう。
リグノシルの採用を決定的にしたポイントは主に三つ。一つは塗膜を形成せず、素地に含浸するメカニズムであるということ。木材そのものが本来持っている風合いを損なう事なく、また調湿・空気清浄作用を妨げずに、木材を汚れやカビから守れることは大きなメリットだった。
二つめは、安全であるということ。溶剤無使用等の子供たちへの配慮は当然ながら、校舎が小川のそばにあることからも防カビ等の保護処理は必須だった。しかしながら、自然保護区に隣接しており、殺虫成分を含有する従来の防腐剤は使用できない。無機でカビが生えず、あらゆる有害物質を含まないシリケート塗料は、外装処理として最適だったのである。また塗料自体が燃えず、火災発生時に有害ガスが発生しない事も重視された。
三つめは、計画者のこだわりを実現するナチュラルな色合いだ。周囲の景観に溶け込む「自然な外観」を目指して、建築家とカイム社の製品開発者は50種類以上のサンプルを試し、ついにたどり着いたのがこの「木が長い年月を経てグレーイングしたかのような」柔らかな木目が透けるグレーだった。この時開発された色は、現在#4861としてリグノシル・ヴェラノの標準色に入っている。
内部には同じシリーズの内装用塗料リグノシル・インコが塗装されている。こちらも同様に安全なので、教室にも安心して使用出来る。白を希釈して塗装した柱や天井の梁は、一見塗装していることがわからないほど、素地の様な明るく自然な色味に仕上がっている。
シリケート塗料は日光によって退色せず、顔料が木材を紫外線から守る機能がある。外部にも内部にもこだわり抜かれて塗装された色は、竣工から長い年月を経ても、その自然な美しさを変わらず維持していくことが出来る。
テクノロジーを駆使して天然の素材を最大限に活かし、生徒や教職員にとって快適な環境を提供し、地球環境にも最大の配慮をしたこの学校こそ、まさに「未来の学校」のモデルケースと言えるだろう。