シドニー オペラハウス
オーストラリアのランドマークの悩みは、沿岸の過酷な潮風による塩害
ニューヨーク州クイーンズ、アメリカ合衆国
2019年
イースト・リバーに沿って林立する摩天楼の中で、ひときわ異彩を放つ銀色の箱のような建物がある。ヘルシンキ現代美術館などをはじめ、数々の芸術文化施設を手掛けたスティーヴン・ホールが設計した公共図書館である。
延床面積は2,000㎡、蔵書数50,000冊と、アメリカの図書館としては決して大きい方ではないが、外壁は耐力壁となっており、柱やカーテンウォールを使わずにファサードのみで建物全体を支えている。おかげで内部は実際の敷地面積よりも広く感じる、開放的な構造になっており、キッズ、ティーン、成人の三つに分かれたエリアがスムーズに繋がる。各エリアにゆったりと取られたコミュニティスペースからは、ファサードに開いた開口部からマンハッタンの景観を望むことが出来る。
何より目を引くのは、壁面の放つ銀色の輝きだろう(表面のアップ:図書館のオープニングツアーにて)。板金に槌目をつけたようなこの独特な質感は、テクスチャ感を出すためにわざと粗削りに仕上げたコンクリートの表面に、カイム・コンクレタールのメタリック・カラーを塗装することで実現した。素地の質感を損なわず、メタリックな輝きでよりテクスチャを際立たせる美装としても、そして海辺の過酷な環境から建物を保護するコーティングとしても、コンクレタールは最適の塗料だったと言える。
硬質で都会的な外装とは対照的に、竹材を使った内装は自然光を取り入れ、ぬくもりある落ち着いた空間に仕上がっている。建物周辺の敷地は緑豊かな庭園となっており、屋上にはマンハッタンの景色を眺めながら読書の出来る空中庭園がある。小さな空間を出来る限り活用し、都会の中のオアシスとしての役割を果たしている図書館。その銀色のファサードは、季節や時間帯によって見せる表情を変えながら、これから先、マンハッタンの新たなシンボルとして輝き続けるだろう。