マリーナベイ・サンズ
海沿いの摩天楼が抱える課題
ケープタウン、南アフリカ共和国
2017年
ケープタウンの西部、大西洋を見下ろすテーブル湾のほとりに建つ「ツァイツ・アフリカ現代美術館(Zeitz MOCAA)」は、延床面積9500㎡にも及び、世界最大規模のアフリカ美術コレクションを誇る。
全高57メートルのメインタワーに42本の円筒状の塔が連なる、大聖堂のような外観からは想像もつかないが、この建物、実は前世紀まではサイロとして使用されていたという異例の過去を持つ。建造された1921年から1990年までトウモロコシの貯蔵に使用されたのち、ケープタウンの工業化の歴史を物語るシンボルとして保全され、21世紀に入って美術館にリノベーションする計画が立てられた。
プロジェクトを請け負ったのは、世界的な3Dデザイナーであるトーマス・ヘザーウィック。42本のサイロの内側をえぐるように切断し、展示スペースを作るという構想を打ち立てたが、これを実現するためには課題が山積みだった。築後100年近く経っていることに加え、もとより貯蔵目的に作られた建物のコンクリートは、いざ切断してみると美観的にも構造的にも様々な欠陥を抱えていたからだ。
そこでコンクリート補修をサポートしたのが、世界各国の歴史的ランドマークを手掛けてきたカイム社である。コンクリートの中の炭酸カルシウムと結合するシリケート塗料の特性は、今回のように年数が経過し、中性化がある程度進んだコンクリートでも相性が良い。仕上げには、素地の質感を残しながら表面を任意の色に「染める」コンクレタールが塗装され、無機質な印象のサイロに暖かみが加えられた。カイム社のノウハウにより、建物は歴史的シンボルにふさわしい趣を残しながら、大勢の人々が訪れる施設として見事にリニューアルされたのである。
かつてこの地の工業化を支えた穀物サイロから、アートの発信地へと変貌を遂げたツァイツ・アフリカ現代美術館は、多くの人が訪れる、アフリカ大陸の重要なランドマークの一つとなっている。