ル・コルビュジエの色彩世界
空間を定義づけるカラー・キーボード
建築のための色彩設計
ル=コルビュジエ(Le Corbusier)、本名シャルル=エドゥアール・ジャンヌ・レ=グリは1887年に、時計職人の父とピアノ教師の母の次男としてスイスで生まれました。はじめは父と同じ時計職人を目指し、美術学校で彫金と彫刻を学んでいましたが、在学中に住宅の設計に参加した事をきっかけに、建築の道を志すようになります。幼い時から音楽や美術といった様々な芸術に触れ、職人としての訓練も受けていたことが、のちに世界的影響を及ぼすコルビュジエ建築の礎となったことは言うまでもありません。
建築家だけでなく画家でもあったコルビュジエの芸術的素養をベースに、カラー・パレット「Polychromie architecturale(建築のための色彩設計)」は生まれました。元々はスイスの壁紙メーカーの依頼を受けてコルビュジエが制作した壁紙用の色見本帳であり、1931年と1959年の2度にわたって発表されました。
コルビュジエは建築における色彩を、芸術的直観に依存した観念的なものに留めず、空間に視覚的効果を与える機能の一つとして分析し、理論的に体系づけて世に送り出したのです。
63色のカラー・パレット
カラー・パレットの63色には全て、コルビュジエがその豊富な経験と卓越した見識を以て厳選した、歴史的、芸術的、連想的な背景があります。そしてこれを適切に組み合わせることで、誰もが「コルビュジエ的」な建築を作れるように構築されたツールが、次に紹介する「カラー・キーボード」です。
色彩の織り成す鍵盤
コルビュジエ・カラーの魅力は、色単体だけでは語れません。その神髄は、「複数の色を組み合わせる」ことにあります。
「Polychromie architecturale」の名前の通り、コルビュジエはこれらを建築に用いる色彩として想定しており、色を選ぶにあたっては、空間の中で色がどのように配置されるか、それによってどのような効果がもたらされるかということに重きを置いています。その効果を体系づけたものが、「カラー・キーボード」と呼ばれる13種類の色の組み合わせです。
「キーボード」という名前は単なる比喩ではなく、コルビュジエが元々、色彩を音階になぞらえて、空間に及ぼす効果と機能別に「色階」としてカテゴライズしていたことに由来します。音が組み合わさることで音楽が生まれるように、色を組み合わせることで一つの空間を定義づけるという、コルビュジエ建築の理念がこの名前には込められています。
13種類の雰囲気
「カラー・キーボード」はテーマ別に13種類の「ムード」に分けられますが、1931年版と1959年版では構成が異なっています。
43色から作られた1931年版のキーボードは、自然や歴史的事物から取ったムード「空間」「天空」「ベルベットI, II」「壁I, II」「砂地I, II」「風景」と、特に雰囲気を定義づけられていない「格子I, II,III」の計12種類。各キーボードは「背景色」と称されるベース・カラー3色と、差し色となる「前景色」14色で構成されており、背景色から2色、前景色から1~3色を選別して組み合わせることで、テーマごとに空間の色彩設計が成されるという仕組みです。
一方、1959年に追加された20色は、組み合わせのバリエーションを拡げるために追加されたもので、これそのものが一つのキーボードとなっています。20色はどのようにでも組み合わせられることはもちろん(推奨は2~4色)、1931年版の43色とも全て調和するように選ばれました。
カラー・キーボード 一覧
コルビュジエのカラー・キーボードを、ムード別に一覧にしました。
以下の手順で、あなたの建築に最もふさわしいカラー・コンビネーションを見つけてみませんか?
- 「ムード」(空間の色彩テーマ)を決める。これにより、背景色と前景色が決まる。
- 背景色を2色選ぶ。この2色は、上下に連続した組み合わせのみ選べる。
- 前景色のキーボードから1~3色選ぶ。複数色を選ぶ時は、必ず左右に連続した組み合わせにする。
- 選抜した2色の背景色を縦軸に、前景色を横軸に配置して交差するように組み合わせる。
◆1931年のカラー・キーボード
各キーボードごとに「ムード名」「背景色」「前景色」と並んでいます。「前景色」は左右にスクロールできます。
ムード
背景色
前景色
空間
天空
ベルベットⅠ
ベルベットⅡ
壁Ⅰ
壁Ⅱ
砂地Ⅰ
砂地Ⅱ
風景
格子Ⅰ
格子Ⅱ
格子Ⅱ
格子Ⅲ
格子Ⅲ
※「格子II」「格子III」のみ、背景色の組み合わせによって前景色が異なる2種類のキーボードがあります。
◆1959年のカラー・キーボード
全20色。この中ではどのように組み合わせても調和します。また、1931年版の43色とも全て合わせられます。